2021/12/14

才能と選択(ジェフ・ベゾス)

2010年、ベゾスが母校・プリンストン大学の卒業式で語ったスピーチらしい。

古い話だし以前も見かけたことはあったんだけど、改めて見ても実に深みのあるいい話をしているのでメモメモ



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子どものころは毎年夏になると、テキサスにある祖父母の農場で過ごしました。風車を修理したり、家畜に予防注射をしたり、そのほかの雑用を手伝ったりしていました。午後は毎日昼メロを見ていました。とくに、「デイズ・オブ・アワ・ライブズ」は欠かさずに見たものです。

祖父母はキャラバンクラブという、エアストリーム社のキャンピングトレーラーを持っている人たちのグループに入っていて、メンバーと一緒にアメリカやカナダを旅行していました。その旅に、私たちもたまに連れていってもらうことがありました。トレーラーを祖父の車につないで、300台ものほかのトレーラーと列をなして旅に出かけるのです。

私は祖父母が大好きで、いつもこの旅をとても楽しみにしていました。ちょうど10歳ごろだったでしょうか、旅に連れ出してもらった私は広々とした後部座席で転げまわっていました。運転していたのは祖父です。祖母は助手席に座っていました。祖母は旅のあいだずっとタバコを吸っていて、私はそのにおいが嫌でした。

そのころの私は何かにつけてちょっとした計算をしては推測ごっこをして勝手に喜んでいました。ガソリンの燃費を計算したり、日用品の買い出しについてどうでもいい統計を考えてみたり。

そのときは、少し前に聞いた喫煙に反対する広告キャンペーンが頭に残っていました。細かいことは覚えていないのですが、タバコを吸うたびに寿命が縮むというような広告でした。たしかひと吸いで2分だったと思います。


そこで祖母のために計算してみることにしました。1日に吸うタバコの本数と、タバコ1本につき何回吸うかなど、およその数を計算しました。それらしい数になったので、前の座席に顔を突き出して祖母の肩を叩き、鼻高々にこう言いました。

「ひと吸いで2分なら、もう寿命が9年縮んだね!」

それからのことは、鮮明に脳裏に焼きついています。私にとっては思いがけない出来事でした。頭がいいね、よく計算できたねとほめてもらえると思っていたのです。「ジェフ、なんて賢い子なんだろう。ややこしい推測をして、1年が何分かを計算して、そこから割り算したんだね」なんて。


でも違っていました。祖母がわっと泣き出したのです。

私はどうしていいかわからず、ただ後部座席に座っていました。祖母が泣いている横で、祖父は黙って運転していましたが、高速道路の脇に車を止めました。祖父は車から出て後ろにまわり、後部座席のドアを開け、私が出てくるのを待っていました。叱られるのだろうか?

祖父は非常に知的で寡黙な人でした。厳しく叱られたことなどありません。でも今日、はじめて叱られるのかもしれない。車に戻って祖母に謝りなさいと言われるのかもしれない。

これまで祖父母とのあいだでこんな経験ははじめてで、どうなるのかまったく見当もつきませんでした。私と祖父はトレーラーの脇に立ち、向き合いました。祖父は私を見て、少し黙ったあと、優しく静かにこう言ったのです。

「ジェフ、賢いよりも優しいほうが難しいんだ。いつかおまえにもわかるときがくる」



今日みなさんにおししたいのは、才能と選択は違うということです。頭のよさは持って生まれた才能です。優しさは選択です。才能は簡単です。生まれついてのものですから。選択は難しい。うっかりしていると才能に溺れてしまいます。そうなると、おそらく選択を誤ってしまうでしょう。

ここにいるみなさんはたくさんの才能に恵まれています。頭の回転が速く賢いことも、みなさんの持って生まれた才能の1つでしょう。難関を突破してこの大学に入ってきたわけですから。もし頭のよさが何らかのかたちで示されていなければ、入学が許可されるはずはありません。

いまこれから、みなさんが驚くべき世界を旅するにあたって、その頭のよさが役に立つことは間違いありません。私たち人類は、ときにはつまずきながらも、それでも驚くべきことを達成するでしょう。

環境に優しいエネルギーを大量に生み出す方法を見つけるはずです。細胞壁に侵入して病気を治せる原子レベルの微細な機械をいつかつくりあげるでしょう。ついこのあいだ、生命を合成できたという報道もありました。とてつもない大ニュースですが、一方で必然でもあります。今後数年のうちに、生命を合成するばかりか、仕様まで設計できるようになるでしょう。人間の脳も解明できるようになると思います。

ジュール・ヴェルヌ、マーク・トウェイン、ガリレオ、ニュートン。何でも知りたがったいにしえの天才たちはみな、いまの時代に生きていたかったはずです。私たちは文明全体として多くの遺産に恵まれていますし、私の前に座っているみなさんは、個人として多くの才能に恵まれてもいます。


そんな生まれながらの才能を、どう使ったらよいでしょう? みなさんがこれから誇りに思うのは、才能でしょうか、それとも選択でしょうか?

(中略)

明日から本当の意味で、みなさんの人生が、みなさんがゼロからご自身で築き上げる人生がはじまります。

その才能を、みなさんはどう使いますか? どんな選択をするでしょう?

惰性で生きていきますか? それとも情熱を追いかけますか?

みんなと同じになりますか? それともほかの誰とも違う自分になりますか?

楽な道を選びますか? それとも誰かのために挑戦し続けますか?

批判されたら引き下がりますか? それとも信念を貫きますか?

間違ったらはったりで誤魔化しますか? それとも謝りますか?

傷つくことを恐れて何もしませんか? それとも惚れ込んだら行動に移しますか?

安定を取りますか? それとも少し向こうみずに突き進みますか?

困難なときにあきらめますか? それでもなおがむしゃらに挑戦し続けますか?

言い訳や批判だけで終わりますか? それともみずから何かをつくりだしますか?

誰かを傷つけてでも自分の賢さを主張しますか? それとも人に優しくなりますか?


ここで、思い切って予言めいたことを言わせてください。

みなさんが80歳になり、静かに過去を振り返り、自分にしかわからない人生の物語を自分に向けて語るとしましょう。そのとき、あなたの人生を最も適切かつ端的に表すのは、あなたが行ってきた選択の数々にほかなりません。私たちはつまるところ、自分の選択からできているのです。

みなさんが素晴らしい人生の物語を紡がれますよう。

私の話を聞いてくれてありがとう。幸運を祈ります。


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