2005/09/09

~富士登山’05 其の十~


8合目以降の登りは苦行のようだったと書いたが、下りは更なる苦行だった。
どこまで行っても単調なつづら折が続く。
まっすぐに駆け下りていたら膝が痛くなってきたのでジグザクに下り
負担軽減を図る。

14:00 3,350m地点
ちょっとペースが遅い。スピードアップを図る。

15:46 河口湖口5合目到着
急いで降りてきたら頭が痛い・・・。
バス乗り場に並んでいるときスパニッシュ系の女性と目が合いにこやかな笑顔を向けられたが、頭が痛くてどうにもならんので無表情で対応してしまった。すまんかった。
しかし下りは本当にキツかった。どちらかというと精神的な面で。
今、「もう一度富士山に登りたいですか?」と訊かれたら「登ってもいいけど、下りたくはない。」と答えるだろう。
その後河口湖駅に到着する頃には頭痛も収まっていたので駅前のレストランに入り生ビールとワカサギ定食を注文する。
・・・ウマイ。
やはり、疲れたときの酒はいい。車で来なくて本当に良かった。


心地よい酔いに揺られ、所沢までの3時間半の渋滞もウトウトとしたまま苦も無く過ごす。多少混んでようが、自分が寝ていても進むなんてありがたい話ではないか。
所沢到着後、運転手さんから富士山はどうだった?と訊かれた。
また、ちょうど車で仕事帰りの弟が駅で俺をピックアップしてくれた。
弟からも当然同じ質問を受けた。 俺の答えはもちろん一緒だ。


―どうだった?

「なんてことなかったよ。

orz



~富士登山’05 其の九~

・六合目~頂上

08:14  7合目
やはり空気が薄いのだろうか。しんどい。
昨日の夜TVでやっていたユダヤ人収容所の特番をつい見入ってしまって、寝不足を招いたのが効いてきたのかもしれない。一歩一歩が重い。
しゃあない。ここらで一発長い休みを取ることにした。ただ座ってるのもなんなので、うどんを食べることにした。700円也。
小屋に入ってリュックを下ろしうどん代を支払って財布をしまっていたら金を受け取った兄ちゃんが早く出て行け、という。中で休むのは有料だから、飯は外で食ってもらうことになっている、とのこと。
外で食うのは別に構わなかったけど、財布をしまう間も急かすのはあんまりじゃないだろうか?わざわざこんなことで揉めたくないのでさっさと出て行こうとリュックを手に取ると奥から出てきたブタみたいな女が「何?この人?」と弛んだあごで俺を指す。兄ちゃん一言、「うどん。」。俺はうどんじゃねぇ!
まったく腹立たしいスタッフどもだが、富士山の山小屋の対応の悪さはるるぶにも書いてあった。
あぁ、星観荘の女性が懐かしい・・!

それでもまぁ、程よく寒い中空きっ腹に澄まし汁のうどんはおいしく、汁までさっぱり飲み干してしまったのであった。うどん待ち時間に隣に座った姉ちゃんグループの写真など撮ってやりながら機嫌も直し、さらに高みを目指して旅立ったのであった。ちなみにここでは焼印は押さなかった。


09:37 8合目
富士登山道の表示は一般人には分かりにくく、いままでも4合目が無かったりしていたが、逆に7合目と8合目はいっぱいあった。というか山小屋ごとに「俺のとこが7合目(8合目)だ!」と主張しているようだ。ただ、7合目・8合目とも最後の小屋は「7合目(8合目)」と銘打ってあり、一応他の山小屋もそれは認めているようだ。やはりここでは「高いほどえらい」が共通認識らしい。
道は7合目から岩場になっていたが、8合目を超えるとつづら折の溶岩道になる。
6合目まで苦労したのと同じ細かい溶岩で、こちらは傾斜がゆるいのでずり落ちる心配はないが、疲労か高度によるものか足取りが重い。歩幅が30cmほどになりペースも著しくダウンする。

10:56 3400m地点
ここが9合目なのかな?それにしては低いか?表示も無いしよく分からない。
うどんのカロリーを使い果たしてしまったので最後のウィダーインゼリーを飲む。
雲海が綺麗だ。
一面に広がる純白の海。
その密度の濃い絨毯をみると無理とは分かっていても、その上を歩きたい衝動に駆られる。
今回の富士登山で「来て良かった」と思わせてくれたのは、この雲海の美しさだった。

目の辺りにした富士の神々しさも俺の体力を回復するわけではなく、この頃は本当ただただ足を前に出すだけになっていた、そこで俺は一つの発見をしたというか思い出した。
ランナーズハイを俺はまだ迎えていない。
ちょこちょこ休むからいつまでたっても苦しいのであって、根性入れて歩き続ければまだ突き抜けるんじゃまいか?結論から言えばその通りだった。少しづつでも止まることさえなく動き続けていたら突き抜けた。もう走れそうなくらい元気が出てきた。試しにちょっと走ってみたらここは酸素が薄いんだと実感させられた。正直20mくらいで死ぬかと思いましたよ、ええ。無理は禁物です。


12:20 登頂!
やっと着きました!
最後のほうでランナーズハイを迎えられたので気分的には割りと楽だった。だからあんまり感慨も無かった。山頂に着いたらカレーを食うつもりでいたのだが、時間が無いからパスすることにする。
山頂の神社の宮司?の方に最後の焼印を押してもらう。頂上の焼印は今までと違って赤い。なんでも溶岩をすり潰して使っているそうで、途中の赤い道と同じ色でしょ?とのこと。そう言われればそうかな?値段は300円。今まで全て200円だったのにやっぱり頂上は違いますね。と言ったら笑っていた。日本人特有の笑いだ。やはり富士の力がそうさせるのだろうか。
ついでに土産物屋で日章旗を購入し、杖にくくりつける。その足で最高峰「剣が峰」に向かったが、吉田口山頂からはお鉢巡りの真裏にあたり、通常30分ほどかかるという。リサーチが甘かった。orz
一応向かってみたが、麓の「馬の背」まで行ったとところでタイムアウト。バスに遅れるわけにも行かないので引き返し下山することにする。

下山前にトイレに行こうと思ったが、激込みなので止めた。折角小銭用意したのに結局1回もトイレ行かなかったな。まあいい。

13:30 下山
さらばだ富士山!ちゃんと踏んづけてやったぜ!!


~富士登山’05 其の八~

・中の茶屋~六合目

道はなだらかに登り続けるハイキングコースようだ。
狭い道の両側から朝日を浴びた枝が覆うように伸びている。澄んだ空気がおいしい。

05:17 馬返し
その昔はここまでは馬で来れたらしい。もっとも庶民はずっと歩いて来たのだろうが。俺みたいに。
ちょんまげで賑わう馬返しをしばし想像して先を急ぐ。

05:27 1合目
中の茶屋=1合目かと思ったが違った。ちゃんとありました。
ここまでの道は相変わらず快適そのもの。小鳥はさえずり、俺もさえずってみる。汗ばんだ帽子を脱ぐと心地よい清涼感がある。

05:49 2合目
小さな小屋があるだけの2合目。写真だけ撮って先へ進もうと思ったら、先の端の上に動く物体が。
浦和レーズッ!と怒鳴り散らそうかと思ったが、よく見たら人だった。沢に架かる小さな橋上に座り弁当を食べている。中の茶屋に駐車してあった車のオーナーなのだろうか。いずれにせよこの登山で初めて人に出会った。
こんにちは、となんのひねりもない挨拶を交わすその目が「お前もか」と言っている。
北海道ツーリングで出会うライダーと一緒だ。非日常な環境では不思議な連帯感が湧いてくる。
ま、男には興味ないし先を急ぐ。

06:02 3合目
10分程で3合目到着。快調だ。このペースで行ったら後1時間ほどで登頂だ。
深い森の合間から晴れ渡った空が見える。木漏れ日越しに見える青が深く美しい。
青は藍より出でて藍より深し、という言葉がふっと脳の奥から浮かび上がってくるが、意味を忘れた。
アルツハイマーだろうか。恐怖から逃げるように先を急ぐ。

06:30 5合目?
今まではいかにも観光用といった風情の綺麗な棒に1合目とか2合目とか書いてあったのだが、ここは小屋の前のぼろい板切れに「五合目」と書いてあり、その時も擦れている。
4合目も無かったし何かの間違いか?昔の五合目なのか?よく分からんが、景色はいい。
小屋はきつめの左カーブの内側に建っており、道の前は崖状に切り立っている。崖下から背の高い木々が青葉を伸ばしてはいるが、視界を覆うほどには育っておらず、葉の届かないひらけた空間から下界が見える。初めて景色らしい景色を見ることができた。
ここ、富士吉田登山口は江戸時代から残る富士御霊山参拝ルートらしい。五右衛門も与吉もここでひと休みしたに違いない。ご先祖様、富士は今もは変わっていませんよ。right?
さて、僕らは先へ行こう。

06:58 5合目 佐藤小屋
初の山小屋に到着する。霧深い。いつもそうなのだろうか。
小屋は早朝にも関わらず既に営業しているようだ。 24時間なのかな?
小屋の住人なのか遊びに来た子なのか、小学生くらいの女の子がボールを投げて犬と遊んでいる。犬はかなりの大型犬で飛び掛ると前足は女の子より高くなる。しかし女の子は特に怖がることもなく、またボールを投げて拾わせている。慣れているのだろう。動物と戯れる子供というのはかわいいもんだ。
俺は少し疲れたのでベンチに座り、ウィダーインゼリーを飲みながらるるぶで現在位置を再確認する。予定よりだいぶ早い。まぁ、帰りが決まっている以上早いにこしたことは無い。さてぼちぼち行くか、と思ったらボールが俺の方に飛んできてそれを追って巨大犬が突進してきた。女の子がミスったようだ。気をつけろ殺すぞ。
女の子の方にボールを投げ返してやり、出発する。いい天気になりそうだ。

星観荘
ちょっと登ったところで杖を買っていないことを思い出す。
そうだそうだ、杖を買って山小屋で焼印を押してもらうんだった。忘れてた。と思ったらすぐ次の小屋があったので、開け放たれていた玄関を除くと綺麗な金剛杖がまとめて傘立てに差してある。
さっそく買おうと「すみませーん!」と声を張り上げるも反応が無い。もう一度さらに大声で呼びかけるとガタガタと音がして階上からスウェット姿の若い女性が降りてきた。まだ寝ていたようだ。すまん・・・。
この女性はとても愛想がよく、かわいらしいひとだった。すっぴんだがかわいい。こんな山小屋にはもったいないくらいだ。(←失礼)
杖代1000円を支払い、「がんばってくださいねっ♪」と笑顔のお見送りをうける。オレ、ガンバル。
近くにいたオーナーらしい初老の男性も「がんばってくださいー」と声を掛けてくれる。ここは本当に富士山か。素晴らしい。焼印も綺麗だし、文句ありません。
みなさん、富士山にお立ち寄りの際はぜひ星観荘をご利用下さい。


六合目で御殿場口ルートと合流するはずが、どこかでルートを間違えたのか、いつの間にか獣道を歩いており、そこを抜けると細かい溶岩の急斜面に行き着く。上に柵が見え、その向こうが正規の登山ルートのようだ。仕方ないので急斜面を登り始めたが、細かい溶岩の斜面は足を踏み出すとカラカラと崩れ、一向に進まない。それどころか転びそうになる。
ここで転ぶとズサーッと滑り落ちて「ふりだしにもどる」ってことになりかねないので、真新しい杖を溶岩に突き刺しながら登る。一歩踏み出し、刺す。踏み出し、刺す。なんか強くなったようで楽しい。
やがて上まで行き着き、柵を越えて正規ルートへの復活を果たす。

あと半分!

~富士登山’05 其の六~

・自宅~富士吉田

9:29 富士吉田駅到着

ホテルに直行しチェックインを済ませる。フロントで富士山への道を尋ねるが要領を得ない。
「誰に聞いてきたんだ」とか言って俺の荷物を不審気に眺める。
どうも俺を自殺志願者かと疑っているフシがある。サンダル履きで富士へ行くと言っても信じてもらえないのは仕方が無いか。

一旦部屋に荷物を置いて腹ごしらえに出掛ける。
近くのガキ大将ラーメンでラーメンライスを食った後、コンビニで水とウィダーインゼリーとおにぎり(朝ご飯)に電池を買って帰る。
帰り際、上部に大きく「富士」と書いてある鳥居をくぐって行く。ゆるやかに続く登坂の向こうには富士山があるのだろうが今は闇に包まれて見えない。
まぁ、急がなくても明日になれば嫌というほど見ることになるだろう。

部屋に帰って荷物をパッキングし直したら11時。
携帯のアラームを3時、3時5分、3時10分にセットして寝た。

~富士登山’05 其の七~

・浅間神社~中の茶屋

03:05 2回目のアラームで目覚めた。
顔を洗い、熱いお茶をいれ 、おにぎりを食べて出発。03:15。外はまだ真っ暗だ。

とりあえず出発地点の浅間(せんげん)神社を目指す。昨日フロントで聞いた通り、真っ直ぐ行って信号を一回曲がるだけ。すぐ着いた。
神社にはすぐ着いたが、登山道がわからない。
暗い。ヘッドライトが無ければ看板も読めないところだった。ちゃんと電池を買っておいて良かった。
まぁ道が分からないことには変わりが無いが。もっとちゃんと道を聞いとけば良かった。

デカいリュックを背負って境内をうろつくこと30分。ついに分かった。
神社の中の道が登山道に繋がっているのかと思ってたが、違った。隣の道だった。orz

落ち込んでいる暇は無い。
気を取り直してずんずん進む。
るるぶによると中の茶屋までの所要時間は約80分。
急がないと夜が明けてしまう。



ずんずん進む。進む。進む。ずんずん進む。
「疲れた。」

携帯で時折メモを取りながら進んでいたのだが、最初に疲れた、の文字が出てきたのが03:59。
浅間神社を出て10分後のことだ。早い。早すぎる。


04:20 ヒマだ。
誰もいない。何も見えない。聞こえない。見上げると空は微かに紫がかっている。
一句。
富士は あけぼの (以下自粛

さらに進むこと数分。左手の木立の中から音がする。
パキ・・・パキ・・・バキバキッ!

「・・何かいる!」

間違いない。気のせいで済む音量では無かったし、風でゴミが舞ったというには大きすぎる。それに、風なんて吹いてない

歩を止めず、気を引き締めながら顔を巡らす。ぼんやりと白いものが見える。看板だ。

「クマ出没!注意!」

可愛らしいクマが少年少女を襲っているイラストが描かれている。

しかし、俺は知っている。クマは滅多なことでは人間を襲いはしない。

襲われた人の話を聞くと、道端から不意にクマが現れたとか、山菜を探して茂みを掻き分けたらそこにクマが、とか不意に「出会ってしまった」ことがきっかけとなっている。彼らも人間には会いたくないのだ。そこに人間がいることが分かっていればワザワザ姿を見せることはないのだ。

そこで普通は熊除けの鈴を付けたり、ラジオをつけっぱなしにして携帯するのだが、俺には鈴もラジオも無い。そんなことるるぶに書いてなかった。

仕方ないので次善の策。歌うことにした。

誰かに見られたら恥ずかしいが、幸いなことに人なんて一人もいない。今ならジャイアンのテーマを歌っても大丈夫だ。

♪おーれーはジャイアーン・・・がーきだいしょー・・・・・・

これしか知らなかった。短すぎるので他のを歌うことにした。

色々歌っているうちに浦和レッズの応援歌が口をついて出てきた。

これがいい。

さすがに応援歌だけあって元気が出るのだ。歌詞は良く知らないが、どうせ応援するのもされるのも俺なのでそんなこと関係ない。

適当な替え歌を歌い続けていると、呼ばれるように太陽が顔を出す。

夜明けだ。

04:35 中の茶屋到着。

車が2台止まっている。どうやら通常1合目から登るというとここがスタート地点になるらしい。知らんかった。

まだ店は閉まっているが、軒先のベンチは開放してあるので有り難く休ませてもらう。

スポーツドリンクを一口飲み、出発。

いよいよここから山道だ。


~富士登山'05 其の五~

・道具編

るるぶによる推奨装備・携帯品は以下の通り。

帽子
バンダナ
手袋
タオル
雨具(セパレートタイプ)
トレッキングシューズ
靴下
ストック
スパッツ
重ね着用ウェア

ザック

ゼリー飲料
サプリメント
菓子(チョコ・飴・ビスケット)
フルーツ・ドライフルーツ


日焼け止め
ヘッドライト・懐中電灯
ティッシュ
ウェットティッシュ
ゴミ袋
絆創膏
ゴーグル・サングラス
健康保険証
小銭
小銭入れ・ウエストポーチ
携帯電話


時間も無いし、早速準備に取り掛かる。


まずはリュック。
部屋にアーミーっぽいデカイのが転がってたのを思いだす。ちょっと重いが、買うのももったいないのでそれでよし。

次に初期装着品を選ぶ。
上はドライメッシュ長袖Tシャツ(made by UNIQLO)をチョイス。出発が夜だから半袖じゃ寒いかもしれないし、虫対策の面もある。
ズボンはジーンズでいいと思っていたのだが、ネット情報によると歩きづらいらしいのでナイロンパンツにする。
靴は、登山靴は持ってないし、やはり買うのももったいないのでスニーカーでいいことにする。

続いて着替えを揃える。
防寒具はスキー用に買ったアウトドアジャケットを流用することにする。ちょっと厚すぎるような気もするが、買うのももったいないのでいいことにする。
下は、、、バイク用のパンツでよしとすることにする。用途が違うような気もするが、買うのも(略
他にパンツ、Tシャツ、靴下、帽子等こまごまとした着替えも用意する。

キャンプグッズ置き場からヘッドライトを引っ張り出し、電源を入れる。点かない。どうやらただのしかばねのようだ。忘れずに電池を買うことを頭に刻み込む。
虫除けスプレー、バンドエイド、軍手、タオル等も取り揃える。

ザックカバーも無いので、所持品をそれぞれビニール袋に小分けにしてリュックに詰めることにする。これで雨が降っても無問題。
ちょっと休憩と冷蔵庫を空けると100均で買ったゲーターレード×2とウィダーインゼリー×2があったので、それもリュックに詰める。

一通り詰め終わったところで計量してみる。
11kg。
後で水1Lと若干の食料、それに電池を買い足す予定なので、推定12kgといったところか。
平均が分からんがちょっと重いような気もする。
今回はもし帰りのバスに間に合わなかったらゆっくり温泉でも入ろうと思って着替えを多めに持って行ったし、無駄が多かったということだろう。

さて、準備完了。
時計を見ると7時前。脳内プランより1時間遅れたが、今から出れば9時半頃には付けるだろう。

いざ、出発!

~富士登山'05 其の四~

・交通手段検討編

次に往復の交通手段を検討する。
電車、バス、車の3択だが、まず車は消去した。
行きはいいけど、帰りに疲れた体で運転するのはいやだ。それに酒が飲めない。ダメだ。話にならん。
続いてバス。
所沢から5合目までの直通バスが運行しているという情報を入手した。が、残念なことに本日の最終バスは既に出発してしまっていた。
帰りの方も調べたが、5合目から直通は10:30発しかなかった。これには到底間に合わないため、河口湖駅発17:29-所沢駅着19:30の最終バスを予約することにした。それに合わせたシャトルバスを調べると五合目発16:05-河口湖駅着16:55というのがあったので、それに乗ることにする。
本来は下山も麓まで行うべきなのだろうが、時間も無いし、まぁ、目的はあくまでも「登山」であって「下山」ではないのだからいいだろう。
人間、柔軟性が大切だ。
ということで、往路は電車、復路はバスを乗り継ぐことに決定したのであった。


次に登山の所要時間だが、これが良く分からない。
ネットもるるぶも五合目からの情報ばかりで麓からルートを解説したものがほとんど無いし、登山歴皆無のホモサピエンス30歳♂の体力をどの程度とみればいいのか皆目見当がつかない。(今回調べてみて思ったが、意外とこういう段階でもたついて中止してしまった人も多いのではないだろうか?それがこの長文を書く動機になりました。誰かの参考になれば幸いです。)
仕方ないので他人を参考にしようと富士登山経験がある弟に訊くと、彼が河口湖五合目から頂上まで登った時は5時間ほど掛ったという。そのとき彼は20歳くらいだったというが、まぁ、20も30も同じようなもんだろう。
るるぶを見ると富士吉田市観光協会の広告が出ていて、それによると麓の浅間神社から6合目までは5時間らしい。記事ではなく広告なので何処まで信用していいか分からないが、他に情報が無い以上は仕方ないので全面的に信用することにする。
五合目までが5時間、六合目からも5時間。足して10時間だが、五合目-六合目間が重複しているので登りは計9時間で計算することにした。
下りは距離も半分だし、速度も倍くらい出そうな気がするから、3時間でいいか。休憩約1時間とすると合計は・・
全行程13時間。 長い。
結果からいけばこのシミュレーションはかなり正確だったのだが、この時はまるで自信が無かったので最悪帰れなくて翌日出勤できないこともあるかもしれないと思っていた。



帰りのバスが五合目16:05だから、逆算すると出発は03:05。
こんな時間に着く電車は無いから現地に宿を取って今夜出発することにする。
ネットで安いビジネスホテルを調べると、「ビジネスホテル芙蓉」が見つかった。
当日のためネット予約は使えなかったのでちょっと高くなってしまったが、富士吉田駅徒歩3分と近く、立地も分かり易いので満足だ。この時点で16:00頃になっていたので、準備に2時間掛かって6時出発として8時半くらいの到着になる旨を告げ予約完了する。

計画は着々と進められていく。
次は道具だ。

~富士登山'05 其の三~

・ルート選択編

友人知人で富士に登った経験のあるものは何人もいる。その話を聞くたびに納得のいかないというか、少し不満に思う点があった。
それは、「なぜ富士登山は5合目からなのか?」ということだった。

登山といったら麓から頂上までが基本ではないのか?
それに俺は富士山を倒しに行くのだ。その観点で見ても車で5合目までいって「勝負だ!」というのも何か違うような気がする。卑怯な感すらする。
男30一人旅。失うものは何一つ無し。
麓から登ることが決定した。
ちなみにこれが8/16 PM15:00頃の話。夏休みが8/17までなのであと一日。
「麓から日帰り登山」も自動的に決定したのであった。


振り返ると登山は本当に久し振りだ。中学3年の高尾山以来だろうか。
あの時は中学卒業記念ということで親父と二人、手ぶらでコンビニの袋を下げて登ったが今回はそうもいかないだろう。何せ相手は日本一だ。

何はともあれまず情報。
ネットで色々検索してみたが、麓から登る人は少数派らしくあまり情報が出てこない。
仕方ないので本屋に行って「るるぶ 富士山’05~’06」を買ってきた。’04でも’07でも富士山はあまり変わらん気もするが、そう思うのは俺が素人だからなのだろう。

まずは登山ルートを決めることにする。
富士山には主に次の4つルートがあるらしい。

1、吉田口・河口湖口(河口湖口)ルート
吉田口は富士最古の登山ルートであり、麓から登る唯一の道。
前半は深い自然に囲まれ情緒たっぷり。神社・史跡も点在する。六合目で河口湖口と合流する。
河口湖口は、新宿から五合目(2305m)まで直通バスが走るなど東京方面からのアクセスが良く、山小屋も一番多いため人気の登山道である。六合目で吉田口ルートと合流する。ちなみに七合目までは馬でも行けるらしい。

2、御殿場口ルート
五合目が最も低く(1440m)、山小屋も少ないため初心者向きではないらしい。が、その分空いているというメリットもある。
下山道に「大砂走り」と呼ばれる急斜面の砂利道があり、一歩踏み出せば1mくらい滑ってゆき、まるで飛ぶように下りられるらしい。かなり爽快らしく、下山道だけこのルートを選択する人も多いとか。

3、須走口ルート
五合目(2000m)が河口湖口より低く、山小屋も少なめのため比較的空いている。のんびり登るにはいいようだ。
下山道は「砂走り」と呼ばれる。なんだか御殿場口をソフトにしただけようなデータだが、果たしてどうなんだろう?

4、富士宮口ルート
西日本からならここが最もアクセスが良い。
五合目(2400m)も最も高所にあり、山小屋も河口湖・吉田口の次に多い。
独立した下山道がないため、登山者とすれ違いながら下る事になる。時間と体力が許せば下山は御殿場口を選んだほうがいいような気がする。


調べた限りでは麓から登山ルートは吉田口しかなかった。
選択の余地無し。こうしてルートは決定した。

~富士登山’05 其の二~

・データ編
とりあえず今回の俺の装備・経費等のデータを最初にまとめておきます。
後に続く人への一助になれば幸いです。
(←'05夏、富士山でこのリュックを背負ってるやつを見かけた人がいたら、それが俺ですw)

-時間-
【自宅ー富士山付近】
往路 約2時間半(西武新宿線S駅-JR-富士急行富士吉田駅)
復路 約4時間(河口湖口五合目-河口湖駅行 シャトルバス45分、河口湖駅-所沢駅 高速バス3時間)
【登山】
麓→頂上 約9時間
頂上→五合目 約2時間15分
途中休憩 1時間

-持ち物-
アーミー風のリュック1つ、中身は下記の通り
荷物を詰めた状態での重さ約12kg
【服飾系】
短パン
Tシャツ x 2
長袖Tシャツ x 2
パンツ
靴下 x 2
サンダル 
トレーナー
アウトドアウェア
雨具(ズボン)
軍手
帽子
長袖シャツ
【飲食系】
ウィダーインゼリー x 3
水 1L
スポーツ飲料 500ml x 3
飴(ミルクコーヒー味)10粒入
【小物】
携帯電話
ヘッドライト
予備電池(単4x4)
るるぶ富士山
財布(3万くらい)
日焼け止め
バンドエイド
ゴミ袋 数枚
デジカメ
ウェットティッシュ
ポケットティッシュ x 3
タオル x 3
*結局使わなかったもの
Tシャツ 1枚、長袖Tシャツ 2枚、アウトドアウェア、雨具、水は500mmでよかった、予備電池、バンドエイド、ポケットティッシュ、タオル2枚

-費用-
合計 JPY14,820.-(金額は一部適当。税込/抜も適当)
【宿泊費】
ホテル芙蓉 シングル    5,800
【交通費】
所沢-富士吉田間 電車賃  3,780
五合目-河口湖駅 バス代  1,500
河口湖駅-所沢駅 バス代  2,200
【用具代】電池(単四x4) 300
るるぶ 富士山'05~'06   800
【飲食費】水1Lペットボトル 200
ゲーターレード 500mlx3   300
ウィダーインゼリーx3 600
飴(UHA 特濃ミルク黒糖) 100
ラーメンライス  930
おにぎり  100
うどん(富士7合目)  700
わかさぎ定食   900
生ビール    590
【雑費】
おみやげ  500
金剛杖   1,000
焼印x5   1,100
日章旗  500

今日はここまで。

~富士登山’05 其の一~

・プロローグ

「冒険」という言葉が好きだった。
また、「挑戦」という言葉も好きだった。
大きいものや強いものを見ると闘志が湧いてくる、といった傾向があった。健全なオトコノコであった。


小学生の頃だったか、初めて鎌倉の大仏を見たときもそうだった。
天を突くその大きさ。
切れ長の迫力のある眼差し。
車ほどはあろうかという巨大な掌。
強そうだ。とても強そうだ。
「倒す」

恐れを知らぬ少年はとキッと大仏を睨んだ。
敵は眉ひとつ動かさず僕を睥睨していた。この巨大な相手と戦うことを想像してみた。
うなる張り手。
隕石のような頭突き。
指だけでトラックほどはありそうな足が繰り出す回し蹴りは東京タワーをもへし折るであろう。
・・・少年は正直びびった。
わりと賢かった少年は、
「いつか倒す」
と若干計画を変更し敵の本拠地、高徳院を後にしたのであった。


さて「いつか倒す」と言った少年であったが、後に大仏に傷を付けると罪になることを知る。
器物破損:3年以下の懲役または30万円以下の罰金(刑法261条)
悔しいが社会秩序を乱すわけにはいかない。こんなことで前科者となり親兄弟に世間から辱めを受けさせてはいけない。
少年は無事、打倒大仏を諦めたのであった。

少々勝気だった少年もやがて大人になり、仕事を抱え暖かい人々に囲まれ平穏な日々を送っていた。
そんなある日、富士山を見た。
威風堂々、優雅な稜線をたたえた富士は穏やかに下界を見渡していた。
立派だった。
奈良後期の歌集、万葉集にも富士の美しさを称える歌があると聞く。悠久の時代からこの山は人々を魅了してきたのだ。
分かる。この山は美しい。荘厳なものがある。強そうだ。とても強そうだ。
「倒す」


大人になった少年はまず法規制を調べたが富士山に対する暴行は罪にならなかった。
世間に対する顔向けの方も、富士山を踏んづけると後ろ指を指されることも無く、それどころか賞賛されることすらあり得るということだった。

2005年8月16日、こうして俺は日本のてっぺんを踏んづけるために旅立ったのであった。