2007/07/13

私が彼を殺した


読者による謎解きシリーズ第2弾。

ラストシーンは、容疑者を一同に集めその中の誰かを指差した探偵役が、

『犯人はあなたです』

と言ったところで終わるという、超カッコイイものになっている。

この一言を最後に言わせるために積み上げてきた積み木の数を思うと頭が下がる。本当によく作ったなぁ、と思います。

これ以上の感想はネタバレ無しでは為し得ないし、一度しかない推理のチャンスを楽しむためにも未読の方はこの先は読まないことをオススメします。


<<ネタバレ有りの俺的推理編>>

さて、早速推理を始めよう。

まずカプセルの状況を確認すると、殺害に使われたのと同じ毒入りカプセルのうち、所在不明なのは2つ。
一つは穂高がゴミ箱に捨てた内の一つ。これは神林が持っている(いた)様だ。
もう一つは浪岡準子の部屋から最後に盗み出された一つ。これは現場を知る駿河か雪笹が持ち出したと考えるのが自然だろう。

ということで、3者とも毒カプセルを所有している可能性があるので、この線から犯人を特定するのは難しいと思われるので、とりあえず保留しておく。

次に、加賀が示した最後のピース、美和子のバッグ、薬瓶、ピルケース。
これらの品の内ひとつに身元不明の、だが残っていて当然の指紋が残っていたというところから当ってみよう。

読み返してみると、先の3種のアイテムの内、ピルケースについては興味深い記述がある。

駿河直之の章
実は彼愛用のピルケースだった。当時の奥さんとペアで買ったものだということを、俺は穂高から聞いていた。(P.57 )

そしてその行方については、

駿河直之の章
俺の部屋は一応2LDKということになっているが、穂高企画の事務所も兼ねている。おまけに、最近なって穂高が妙なダンボール箱を持ち込むものだから(中略)ダンボールの中には、その前妻から彼宛に宅配便として送られてきたものあった。(中略)前に結婚していた頃の思い出の品は邪魔になったので、彼のところへ突然送りつけてきたとのことだった。(P.181-182)

との記述から、ピルケースもここに入っていたのではないかと推測される。

加賀の言う「残っていた身元不明の指紋」は、穂高の前妻のもので、それは駿河が持っている可能性が高いというわけだ。


そして、結婚式当日、ピルケース受け渡しの場面を改めて見ると、

駿河直之の章
「だけど、俺もすぐに教会に行かなきゃいけないしな」蓋を閉め、ポケットに入れてから周囲を見回した。すぐそばをボーイが通りかかった。(P.148)

とある。すぐ渡すピルケースをポケットに入れる必然性もないことから、この時に予めポケットに仕込んでいた毒カプセル入りピルケースとすり替えた。と見るのが正解・・・・なのかなぁ?


ここで袋とじも読んでみたけど、同じ内容を示唆するものだったし、これが作者の意図する正解だと思う。思うんだけど、いくつか疑問がある。



最大の疑問は、加賀と同じく指紋の件。
ただし、逆。「付いていて当然の指紋がついていた」のでは無く、

『ついていて当然の指紋が付いていない。』

上の「犯人は駿河、ポケットでピルケース入れ替えた」説だと、こうなってしまうのです。


ピルケースは、美和子→雪笹→西口→駿河→ボーイ→穂高の控え室、と移動している。
駿河がピルケースを入れ替えたなら、その前に触ったはずの美和子・笹・西口の指紋は付いていないことになってしまう。これでは速攻で警察にバレてしまうだろう。

予め全員の指紋を付けておく、といったことも全員と面識のある駿河であれば不可能ではないかもしれないが、作品内ではそれを示唆する記述は一切無い(と思う)。

根拠の無い想像の展開はキリがないので、この線は無かったことにしていいと思う。
ならばどう整合性を取ればいいのか。

こういうのはどうだろう。


駿河はポケットの中で、毒カプセルを抜いたのだ。そして空ケースをボーイに渡したのだ。

こうすれば全員の指紋がついたケースが穂高の控え室に残ることになる。
別にマジシャンじゃなくてもポケットの中でちょっとケースを開けてカプセルを落とすくらいのことは出来るだろう。

一方、結婚式当日の朝のミーティングで美和子は

神林貴弘の章
「ピルケースと薬、部屋に忘れてきちゃったから後で誰かに届けてもらうわね」 P.130

と言っている。これを聞いた駿河はの後、ミーティング後挨拶回りの途中にでも新郎控え室に行き毒カプセル入りピルケースを穂高の一着目の衣装のポケットに入れておく、もしくは直接か間接かで渡す。

で、穂高には「祝いの品や届け物などは俺が後で全部処理するからまとめて控え室に置いておいてくれ。あ、それと1着目の衣装のポケットに美和子ちゃんから預かったピルケース入れとたから忘れずに飲んどけよ」などと言っておく若しくは伝言する。

そんでもって、バージンロードで死んだ穂高を抱き抱えるとき介抱するフリでもしながらピルケースを抜き出したわけです。
とりあえず上着を脱がせてしまえば、回収はそれほど難しくは無いでしょう。

これで、

1)皆の前でピルケースはをいじらずに渡し (実際は中を抜いた)

2)その後控え室に近づくこともなかった (皆の指紋が付いた証拠のピルケースは控え室に置いたまま)

というアリバイ充実な状況が出来上がります。

・・・え?これだと穂高の前妻の指紋がついたピルケースは駿河が持っていることになるんじゃないかって?
そ、そうだよ。駿河が持ち帰って処分したんだ。

・・・・え?そうすると加賀の言葉が嘘になるって?
な、ならないよ!加賀が示した写真に写っていたのは、駿河が捨てたピルケースを回収したものなんだ。
加賀は最初から駿河を疑っていた。

なぜなら、初対面で、準子が帰宅が遅かった理由について問われた駿河は

駿河直之の章
「すでに彼女は死んでいたのかもしれない」P.191

と言ったろう?帰宅していない理由を問われて、寄り道していた以外の理由が挙がるのは何%の確率だろう。
加賀は、この男は、彼女がすでに死んでいたことを知っている、とみて身辺を洗い、準子への恋心を掴み、駿河のゴミを回収したのだ。

これで所在不明の毒入りカプセルのうち一つは判明した。では残り一つはどうしたか。最後の一つはどうしたのか。神林貴弘が捨てたか使ったんだろう。
使ったとするなら結婚式前夜、日本料理屋で瓶の中のカプセルと入れ替えたのだ。
そして、瓶に残ったカプセルに毒入りは無かった事実から、そのカプセルは美和子がピルケースに入れたもの=駿河が回収したものであるという結論が導かれる。これが偶然か、美和子が翻意したのかどうかは分からない。キスを許して泣いたあたり、案外翻意もあるかもね。

かなり想像で補うところが多くなってしまったが、指紋の不条理を解こうと思ったらこんな解しか浮かばない。駿河がピルケースを仕込むタイミングがいかにも苦しいのが難点だなぁ・・。 やっぱ妄想かな。



・・・駿河直之。


「犯人はあなたです」




と思うけどどうなんだろうね実際・・・。



<余談>
この小説、心理描写に嘘があるけどミステリ的にこれはいいのかね?

神林貴弘の章
それが穂高真の常備薬の外観と同じだということを、僕は知っている。昨夜、美和子が持っているのを見たからだ。P.132

って実はその前に準子が仕込んで穂高がゴミ箱に捨てたの見たんでしょ?しかも回収してんでしょ?
こういう嘘が許されるなら推理なんて無理だと思うんだが・・・。
ミステリの常識はなのか単なるミスなのか。どうなんでしょ?


<後日談>

自分の推理がまとまったので、ネット上の他者の推理も見てみたけど、やっぱり意図する正解は駿河、ってのでいいみたいね。でもやっぱり「指紋がついてない」ところが気になる人も多かったみたいで、結構色々な推理があって面白い。みんな頭えーなぁ。

しかし俺と同じ推理をした人が見当たらなかったんだが、何か俺間違ってるかな?やっぱ駿河の仕込みに無理があるのだろうか・・・。

今更だけど誰か意見くれー。すっきりしねーよぉぉぉお。


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