2007/04/04

2007年4月4日 曇りのち雨@東京

今日は仕事で経済産業局に行っていた。
単なる申請業務なので難しいことは何もないのだが、申請者が多いためやたらと時間が掛かるのが難点だ。午後2時に役所に入り、終わったのは5時過ぎだった。

疲れた体をほぐしながら出口へ向かうと、ドアの向こうは雨。大量の雨。雷まで鳴っている。

傘も持たない俺は、とりあえず自販機でコーヒーを買って小降りになるのを待つことにした。

雨足は一向に弱まらず、空も段々暗くなってきたところで、ふと思いついて庁舎内の売店に行ってみる。ドアを開けて訊くと、傘は売ってはいたが既に売り切れたという。思いつくのが遅かったようだ。

時と共にエントランスの人も減り、傘を持たないのは数人だけになった。殆どの者はバッグから折り畳み傘を取り出し洋々と去ってゆく。皆、準備がいい。

残された準備が悪い数人は、おそらくお互いに相手のことを無能と判断し、そんな無能に仲間と思われたくないのだろう、目も合わさずに微妙な距離を保っている。
俺は退屈だったし、同じ申請に来た人間同士なんらかの仕事のネタも提供し合えるかもしれない思い、会話を試みようとしたのだが、彼(彼女)らはきっかけを探す俺の視線を視界の隅に感じると自然に顔を逸らし、困りましたねぇ、という感じで近づいていくとタイミングよく席を立ち、または戻り、鉄壁の防御体勢を取り会話のきっかけを作らせないのであった。

ここは東京。
騙す以外の用事で他人が話しかけて来ることなど無い街なのだ。



諦めてダッシュで雨の中に入るタイミングを伺っていると、声が聞こえた。

「今からコンビニに傘を買いに行くんですけど、欲しい方います?」

振り返ると、その男も俺を見ていた。
俺に話しているようだ。
何?何?会話の準備がまるで出来ていなかった俺は咄嗟に自体に対処できなかった。

すると男は右手にもった傘を示しながら、
「いや、傘借りてきたんで、コンビニに傘買いに行くんですけど、良かったら・・・」
と、続ける。
体制を立て直した俺は、いやー、助かります。だけどそれだったら僕が買ってきますよ!などと言い、それに男がいやいやいいですよ。いやいやいや。などと掛け合っている間に、白髪の男が近づいてきて私もよろしいですか?と腰を曲げ、ベンチから腰を浮かした女は曖昧な微笑みを見せ静かにアピールする。
「それじゃあ僕の分も合せて全部で4本でいいですね。」といい、男は今は一本のみのビニール傘を開き外へと歩いていった。

残された3人は会話を交わすことも無くじっと男の帰りを待っていたが、やがて男が約束通り傘の束を携えて帰り、借りた傘を返しに行くのを待つ間に、誰からとも無く空気の緊張が緩むのを感じた俺は、親切な方がいて助かりましたね。と投げかけてみた。
すると2人は明るい顔で、「本当に」とか「どうなるかと思った」とか「捨てたモンじゃない」などと今までのデフェンシブな態度はなんだったのかと思うほど朗らかであり、一種の連帯感のようなものさえ感じさせた。なんだか勢いづきそうな雰囲気であったが傘を返しに行った男が戻ったので、買ってきた傘を受け取り、レシートを見ながら男が言った代金を支払った。ちなみに380円/本であった。
その後はめいめいに礼をいい、帰途に着いたのあった。





知らない男が傘を買ってきてくれた。

とかく人が冷たいとされる東京においても、このようなことがあるのだ。


人にやさしく。

あたたかく。


降りしきる雨は、春を告げる雨かもしれない。

ビニール傘に透けて見える雲を見ながら、そう、思った。









まぁ、俺ならあの傘2千円で売ったけどね。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いい話だな~。2000円の価値はあるな~。。。って、商売すんのかいっ!!

keigochkasan さんのコメント...

おおっ~!関西の突っ込みだっ!本場のノリツッコミだ!コイツは春から縁起がいいぜ。
ありがとうございます!!